昨今、グローバル化を目指して、外国人の採用を考えている会社も増えてきています。はじめての外国人採用を検討していたり、外国人の採用募集をしてみたけれど手続きの流れが曖昧で不安を抱えていませんか。
外国人の採用は、就労ビザの申請など日本人の採用とは大きく異なる手続きがあります。本記事では、はじめての外国人採用でも失敗しないよう、外国人採用の手続きに関する基本の流れをひとつずつ深堀りしながら解説していきます。
目次
外国人を採用しよう!基本の5つの流れ
「社員の刺激になる」「会社をグローバル化したい」など、あらゆる理由で外国人採用を検討している会社は多いでしょう。
しかし、はじめて外国人を採用するとなると手順がいまいちわからなくて困ってしまうかもしれません。外国人採用の手続きに関する基本の流れは次の5つです。
- 在留カードの確認と就労ビザ取得の見込み調査
- 内定後の雇用契約書作成
- 就労ビザ申請
- 就労ビザ審査
- 雇用開始
はじめて外国人を採用する方は、これらの手続きがなぜ必要なのかひとつずつ理解する必要があります。それでは、手続きの流れについて見ていきましょう。
1. 就労ビザ取得の見込み調査と在留カードの確認
外国人採用の1つ目の流れは「就労ビザ取得の見込み調査と在留カードの確認」です。これは非常に重要な手続きになります。外国人の面接を実施しても、いざ内定を出すときに就労ビザが取得できなかったり、在留期間がオーバーしていたりすれば採用できません。
外国人の採用面接がムダ足にならないように、まず面接する外国人全員の就労ビザ取得見込みを調べましょう。そして日本にいる外国人であれば、在留カードで在留期間がオーバーしていないかの確認も必要です。
なお就労ビザにはあらゆる種類があります。本記事ではオフィスワーカーとして外国人を採用する場合のケースについて説明します。オフィスワーカーとは以下のような職種です。
- 営業職
- 事務職
- 通訳
- システム開発
- エンジニア
- マーケティング
- デザイナー
- 語学教師
それでは、就労ビザ取得の見込みはどのように調査するのかを説明します。就労ビザ取得見込みは、外国人の学歴・職歴が大きく関わってきます。そしてすでに日本にいる外国人を採用するには、在留カードも必ず確認しなくてはいけません。それぞれ見ていきましょう。
学歴、職歴の確認
オフィスワーカーが取得できる就労ビザは「技術・人文知識・国際業務ビザ」です。「技術・人文知識・国際業務ビザ」を取得するためには2つの条件の内、1つ以上をクリアする必要があります。
学歴、職歴は以下の書類から入国管理局が判断します。
- 卒業証明書、成績証明書
- 雇用契約書、採用理由書
そして、「技術・人文知識・国際業務ビザ」が取得できる2つの条件は以下のとおりです。
- 外国人が卒業した大学、専門学校での専攻内容に合致した採用であること
- 採用される職種で10年以上の職務経験があること
外国人が卒業した大学、専門学校での専攻内容に合致した採用であること
まず「外国人が卒業した大学、専門学校での専攻内容に合致した採用であること」を確認してください。日本では専門性がない単純作業に、外国人の採用は認められていません。
「技術・人文知識・国際業務ビザ」を取得するには、大学や専門学校で学んだ専門知識を活かして日本で働けるかどうかが条件の1つとなります。
たとえば「システム開発」であれば大学や専門学校で理系を専攻していた学歴、「語学教師」として働く場合は文系の大学に通っていた学歴が必要です。
採用される職種で10年以上の職務経験があること
外国人の最終学歴が大学・専門学校でなかったり、専攻内容と採用職種が合致していない場合でもチャンスはあります。採用される職種での職務経験が10年以上あれば、「技術・人文知識・国際業務ビザ」の取得が可能です。なお、通訳や語学教師としての採用であれば、3年以上の職務経験で取得可能です。
このように、外国人の学歴・職歴を確認することで「技術・人文知識・国際業務ビザ」の取得見込みを調べることができます。面接がムダとなってしまわないよう、事前に確認しておきましょう。
在留カードの確認
日本にいる外国人の採用を考えるときはまず大前提として、在留カードの確認が必要です。在留カードからは以下のことがわかります。
- 在留資格の種類
- 在留期間の満了日
- 資格外活動許可の有無
在留カードを確認することで、不法滞在の外国人や不法就労をしている外国人を採用するリスクを未然に防げます。「在留期間の満了日」を確認して、不法滞在の外国人でないことを判断しましょう。
そして、不法就労の外国人は、「在留資格の種類」を見ることでわかります。在留資格が「留学生」や「家族滞在」であり、「就労不可」と記載があるのに仕事をしている外国人は不法就労をしている可能性があります。
カード裏面の「資格外活動許可欄」に「原則週28時間以内」との記載があれば、その範囲内で就労が可能となります。
2. 内定後、雇用契約書の作成
2つ目の手続きは雇用契約書の作成です。雇用契約書は就労ビザの申請に必要な書類なので、外国人の採用を決定したときは必ず作成しましょう。
雇用契約書の作成は、日本人を採用する場合と基本的に同じです。しかし、外国人に雇用契約書を作成するときは、以下の注意点があります。
- 外国人の母国語での契約書も準備
- 「業務内容欄」が外国人の学歴、職歴と合致していること
- 「この雇用契約は日本で就労可能な在留資格の許可および在留期間の更新を条件として効力を有する」との追記
注意点の1つ目の「外国人の母国語での契約書も準備」ですが、外国人が日本語で雇用契約書を十分に理解できないと判断した場合に必要です。入国管理局が、ビザを申請した外国人が十分に雇用契約書の内容を理解しているか、どうか確認する場合があります。
そして注意点2つ目は「『業務内容欄』が外国人の学歴、職歴と合致していること」です。これは「技術・人文知識・国際業務ビザ」の取得の条件となるため必要となります。
注意点3つ目は、『この雇用契約は日本で就労可能な在留資格の許可および在留期間の更新を条件として効力を有する』と追記することです。こちらを追記しておかないと、万が一就労ビザが取得できなかった場合、雇用契約の効力が発揮されてしまうため注意が必要です。
3. 就労ビザ申請
3つ目の手続きは「就労ビザの申請」です。就労ビザの申請は、会社の所在地にある入国管理局に申請してください。
就労ビザの申請方法は、以下の3つのケースで変わってきます。
- 海外にいる外国人の採用
- 日本にいる外国人の中途採用
- 日本にいる留学生の採用
それぞれ確認していきましょう。
海外にいる外国人の採用
海外で採用活動を行い、日本に外国人を呼び寄せる場合の就労ビザ申請手続きは以下の流れで行います。
- 採用する側が「在留資格認定証明書」を日本の会社所在地の入局管理局に申請する
- 入局管理局より発行された「在留資格認定証明書」を外国人に送る
- 採用される外国人が、現地(海外)の日本大使館に就労ビザ申請手続きを行う
就労ビザは取得までに1~3か月かかります。そのため、入社の時期にあわせて申請するのがよいでしょう。なお、「在留資格認定証明書」は発行後3か月以内に日本に入国しなければ無効になるので注意が必要です。
日本にいる外国人の中途採用
次に、日本にいる外国人を中途で採用するときの就労ビザについてです。日本で働いている外国人を中途採用する場合は、まず入国管理局に「就労資格証明書交付申請」を行います。
「就労資格証明書交付申請」とは、すでに取得されている就労ビザが新しい会社でも通用するのか確認する手続きです。
日本で働いている外国人はすでに就労ビザを取得しているはずです。しかし、その就労ビザが新しい会社での就労も可能とするとは限りません。
もし「就労資格証明書交付申請」を行わずに外国人を採用してしまうと、就労ビザの更新時期に審査が通らないというトラブルが発生してしまうので注意が必要です。申請は、採用する側の会社でも採用される側の外国人でも実施できます。
日本にいる留学生の採用
留学生を採用する場合は、「在留資格変更許可申請手続き」が必要です。留学生のビザは留学ビザなので、そのままでは就労できません。「技術・人文知識・国際業務ビザ」へ変更しましょう。
留学生の入社時期が4月入社である場合、前年の12月1日から「在留資格変更許可申請手続き」が可能です。なお春は入国管理局が混雑するため、早めに手続きすることをオススメします。
4. 就労ビザ審査
学歴、職歴が採用職種と合致するか
就労ビザ取得の条件として、「採用職種が外国人の学歴・職種と合致するか」がありました。学歴は採用職種と大学・専門学校での専攻内容が合致しているかどうか、職歴は採用職種で10年以上(通訳・語学教師は3年以上)の職務経験があるかどうかが見られます。
就労ビザ申請手続きで会社側が提出する「採用理由書」で、外国人の学歴・職歴と採用職種の関連性を十分に伝えられるかがポイントです。
前科の有無
前科があれば問答無用で就労ビザは取得できません。ただし前科は個人情報のため、前科の事実は公開されることはありません。
採用する側が警察や裁判所に問い合わせても回答してもらえないため、外国人本人に確認するしかありません。前科があれば就労ビザが取得できない旨を伝えておきましょう。
採用する側である会社の状況
採用する外国人の就労ビザ審査には、採用する側である会社の状況も審査対象となります。財務状況が悪く、安定性を認められない企業が外国人を採用しようとしても、残念ながら就労ビザは発行されにくいです。
財務状況は以下の情報で審査されます。
- 直近年度の賃借対照表
- 損益計算書や従業員の給与所得の源泉徴収票など法定調書合計表
しかし、入国管理局に対して、外国人が安定して就労できる環境が整っている企業であることを説明することで、就労ビザの審査に有利に働くかもしれません。
給与の水準
採用する外国人の給与が低すぎたり、他の日本人従業員と比べてかなり差があったりする場合は審査に悪影響があります。
外国人であっても日本人と同等以上の給与を支払う必要があり、一般的には年収300万円以上であることが目安とされています。外国人であれば安く雇用できるという考えはやめましょう。
5. 雇用開始
就労ビザが無事取得できたら、外国人の雇用を開始できます。雇用後の手続きに関してはとくに日本人と変わりません。しかし、外国人の採用には以下の注意点があります。
- 雇用保険被保険者資格取得届の提出が必要
- 在留資格の更新を把握する
- 就業規則のコピーを交付する
- 在留資格に基づいた就労活動のみ可
それぞれ具体的に見ていきましょう。
雇用保険被保険者資格取得届の提出が必要
まず、雇用保険被保険者資格取得届の提出が必要という点です。これは採用した外国人が雇用保険に加入する際に必要です。ハローワークに届け出ましょう。
採用した外国人が雇用保険に加入しない場合は、ハローワークに「外国人雇用状況届出書」を提出してください。
在留資格の更新を把握する
就労ビザには在留期間があります。一度取得したからといって、永久的に効力があるわけではありません。在留期間が満了してしまう前に更新手続きが必要です。
更新手続きがなされずに在留期間が満了してしまうと、雇用が継続できなくなってしまいます。就労ビザの更新は採用する外国人が行いますが、会社で在留期間を管理しておくとよいでしょう。
在留期間が過ぎたことに気づかずに雇用を継続してしまうと、外国人は不法滞在となってしまいます。そして気づかなかったとしても、会社側も不法就労助長罪という罪に問われるかもしれません。
不法就労助長罪に問われてしまうと会社の信頼が失われ、今後外国人採用の際に就労ビザの審査に落ちてしまう場合もありますので、十分注意しましょう。
就業規則のコピーを交付する
就業規則には、労働者の給与規定や労働条件、遵守すべき職場内のルールなどがまとめられています。就業規則の理解があいまいなまま作業を進めてしまうとトラブルになりやすいです。しっかりと理解してもらうために、コピーを渡して、理解してもらいましょう。
また海外は日本に比べると、より契約を大切にする傾向にあります。就業規則はとくに、コピーを交付して内容を確認したというサインを受領しておくとよいでしょう。今後起こり得るトラブルを回避できる可能性が高いです。
在留資格に基づいた就労活動のみ可
就労ビザには「在留資格にもとづく就労活動のみ可」と記載されています。日本人従業員であれば、柔軟にあらゆる業務に対応できる場合が多いですが、外国人はできません。
外国人に在留資格に基づかない就労活動をさせてしまうと、不法就労とみなされてしまうことがあり、会社も不法就労助長罪となってしまいます。これは犯罪行為となりますので、十分注意しましょう。
【まとめ】正しい手順を理解して外国人採用をスムーズに進めよう!
ここまで外国人採用の手続きに関する基本の流れをひとつずつ深堀しながら解説してきました。外国人採用の手続きに関する基本の流れは以下のとおりです。
- 在留カードの確認と就労ビザ取得の見込み調査
- 内定後の雇用契約書作成
- 就労ビザ申請
- 就労ビザ審査
- 雇用開始
主に就労ビザの取得が重要なポイントですが、雇用開始後も外国人採用に特化した注意点があります。それぞれの手続きにどういった理由があるのかを確認し、外国人採用の手続きは正確に行いましょう。
参考記事・文献
厚生労働省 外国人の雇用
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page11.html
企業法務の法律相談サービス 外国人雇用手続き完全ガイド!ビザ取得から就労までの5つの流れと注意点
https://kigyobengo.com/media/useful/648.html
みんなの採用部 【2022年版】外国人を雇用するには?|メリット・注意点・手続き・採用手法を解説
https://www.neo-career.co.jp/humanresource/knowhow/b-contents-kikikan-190925/
外国人 HR Lab. 外国人雇用絶対に注意しなければならないこととは?メリットや助成金・手順も
https://gaikokujinhr.jp/3703