技能実習生の失踪防止対策は、実習生受け入れを検討されている企業の課題のひとつです。実習生の失踪にはさまざまな理由が混在しており、一つの理由や一個人だけの問題ではないため、多角的に対処していくことが必要となっています。
本記事では、技能実習生の失踪の理由と法務省公表の施策、加えて各企業ができる失踪者を防ぐための対策についてご紹介します。
目次
技能実習生の失踪の問題
技能実習制度は、発展途上国の経済発展に役立つ“人づくり”を目的にスタートした公的制度です。しかし、制度趣旨と実態はかけ離れた現状が存在し、関係各所でさまざまな問題が発生しています。特に技能実習生の増加に伴う失踪者数の増加は、社会問題の一つとなっています。
法務省による技能実習生の失踪状況
法務省が公表している「技能実習生の失踪者数の推移」では、2013年では3,566人、2021年では7,167人となっています。一番多かった2018年の9,052人よりも、失踪者数が減少しています。しかし、技能実習生の増加していることもあり、失踪者数は年々増加しています。
在留資格の中では「永住者」に次いで2番目に多い「技能実習」は、就労資格の中では1番多い在留人数となっており、日本で働くための在留資格の中でも近年増加の一途をたどっています。
今後、技能実習生を受け入れる際は、従来通りの体制から見直しを行い、失踪者を防ぐための取り組みが必要とされています。法務省が公表する2022年6月の在留外国人数は下記の通りです。
- 総数 266万9,267人
- 1位 永住者 84万5,693人
- 2位 技能実習 32万7,689人(就労資格)
- 3位 技術・人文知識・国際業務 30万045人(就労資格)
- 4位 特別永住者 29万2,702人
- 5位 留学 26万767人
技能実習生の失踪理由
技能実習生が失踪するのには、実習生本人、実習先の企業、送り出し機関、監理団体、それぞれに理由が考えられます。ここでは、主な理由を5つご紹介します。
理由1:母国と日本の所得格差
技能実習生の多くは発展途上国の出身者が多く、母国と日本の経済状況には大きな差があり、最低賃金も日本の方が高いことが多いです。実習生が日本で働く目的は、日本での技術習得以外に、母国で働くよりも高い収入を得ることが魅力のひとつになっています。
技術習得や高所得を目的とした実習生は、日本での労働環境が崩れ、モチベーションが下がってしまった場合、失踪という手段を取ってしまうケースがあります。
理由2:技能実習生の経済状況
技能実習生の中には、借金をして来日している外国人も少なくありません。入国前の送り出し機関やブローカーへ支払った費用などを、日本で働いた賃金から返済することを前提にスタートしている実習生が大半です。
技能実習生としての職務以外に、借金返済の責務が重なっているため、その重圧によって失踪へと繋がるケースがあります。
理由3:不当な労働環境
実習先の企業は、日本人社員の雇用と同等に労働基準法に基づく条件と、入管法による外国人特有の条件を満たしていることが必要です。
実習先の企業の中には、入管法に対する理解不足から失踪者を出してしまうケースもあり、この場合、監理団体の指導・監理不足も影響していると言えるでしょう。
理由4:言葉の壁によるコミュニケーション不足
技能実習制度で要求される日本語能力は、入国時の日本語能力試験がN4、2年目以降はN3レベルであることが厚生労働省から推奨されています。
外国人とのコミュニケーションには、言語、文化、社会的慣習の違いなど、さまざまな課題があります。日本語能力試験に合格しているだけでは実務に対応できない、または仕事以外の場面でコミュニケーション不足が生じて、メンタルを病んでしまうケースがあります。
理由5:社会情勢による影響
社会情勢が目まぐるしい昨今では、コロナ感染拡大、国際紛争など、日本と海外の技能実習生を取り巻く環境にはさまざまな変化が起きています。
入国などが停滞したり、実習先の企業からの解雇や倒産などから、技能実習生の居場所が無くなったりというケースもあり、技能実習生に適切なサポートが無い場合、失踪に繋がってしまうケースがあります。
技能実習生の失踪を防ぐための対策
技能実習生の失踪者増加に伴い、出入国在留管理庁は、失踪者を防ぐための施策を公表しています。
技能実習生に納得感を持って働いてもらうようにする
外国人技能実習生に対して、受け入れ企業は業務内容について詳しく説明し、業務に対して納得感をもってもらうことが重要です。雇用する時点では、技能実習計画を提出する義務はありません。
しかし、入国後に従事することとなる業務内容を、技能実習生が事前に把握しておくことが望ましいです。そのため「どういった業務を行うのか」「どういった技能が習得できるのか」ということを、あらかじめ説明しておくようにしましょう。
給料の仕組みや控除の理由を丁寧に説明する
企業は技能実習生に対して、給料の仕組みや控除の理由を丁寧に説明しましょう。金銭によるトラブルによって、実習生が失踪してしまうケースは多いです。そういったトラブルを未然に防ぎ、気持ちよく働いてもらうためにも、金銭面については、しっかりと説明しましょう。
技能実習生に対して給与待遇を説明する時には、技能実習生の言語で記載された雇用契約書及び雇用条件書を提示して説明するようにしましょう。もし必要であれば、通訳をつけ、内容を詳しく説明して、技能実習生の理解を得ることが望ましいです。
その際、総支給額の賃金のみを説明するのではなく、控除される税金や社会保険料、その他にかかる費用の金額や目的について説明するようにしましょう。
異文化への理解を深め、お互いを尊重する
企業の社員は技能実習生の母国の文化への理解を、技能実習生は日本独特の文化への理解を深め、お互いを尊重することで誤解が生じないようにすることが大切です。どうしても、相手も自分と同じ価値観を持っているだろうと、考えてしまうこともあります。違う国、違う背景で育てば、違う価値観を持つようになるということを念頭に置いておきましょう。
また、文化の違いから、アドバイスを行なっただけでも、相手にとっては嫌な気持ちになってしまうこともあります。技能実習生の指導の際は、文化や言語の理解力などの違いがあることを理解しておきましょう。
指導する側の意図に反して、技能実習生に誤って伝わってしまい、トラブルに発展してしまうこともあります。このようなことにならないためにも、技能実習生と積極的にコミュニケーションをとり、信頼関係を築いていくことが重要です。
技能実習生の失踪者を増やさないためには
実習先の企業ができる失踪者を防ぐための注意点について、ご紹介します。
技能実習制度の理解を深める
基本的な対策として、受け入れ企業は技能実習制度の理解を深めることと、過酷な労働環境を見直し、法令に基づいた雇用関係をつくるための体制が必要となります。また、入管法など複雑な法律について、専門的なアドバイスを受けられる適切な機関や、指導できる専門家とのチーム作りが重要となるでしょう。
内定前に労働条件を確認する
技能実習生に対して、労働条件や職務内容、技能実習制度の仕組みなど、内定前にしっかりと説明しておく必要があります。実習が始まってから食い違いが生じないように、面接またはオリエンテーション等で実習内容について共有が必要です。
適切な監理団体と送り出し機関の選択
技能実習制度では、送り出し機関と監理団体の選択が重要なポイントです。昨今のニュースでは、優良認可のある監理団体が違反行為で摘発された事例もあります。HP等で推奨されている監理団体については、実際に訪問して直接相談しながら技能実習制度を活用することがオススメです。
コミュニケーション方法の見直し
日本人の管理者と技能実習生の間のコミュニケーションでは、常に話しやすい環境があることが必要です。言葉の壁や文化の違いによる不都合は、異習慣を尊重し合える関係性によって改善される場合もあります。また、企業内に実習生が気軽に相談できる担当の指導員を配属することもコミュニケーションを円滑にするために有意義となります。
まとめ|技能実習生を丁寧にサポートし、失踪を防ごう
技能実習生の失踪問題が大きく取り上げられたことによって、制度の見直しや関係各所への指導強化が行われています。実習生本人に対しても在留資格の取り消しなどのペナルティがあります。
実習先の企業は、正当な労働環境で実習生を迎えサポートを行うことが必要となります。これらの対策をおこなうことで、技能実習生の失踪を防ぐことができるでしょう。
【参考記事】
技能実習生の失踪者数の推移(平成25年~令和4年上半期)
https://www.moj.go.jp/isa/content/001362001.pdf
出入国在留管理庁 外国人技能実習生の失踪を発生させないために
https://www.moj.go.jp/isa/content/001350542.pdf